いわゆる声を生み出すための最も要となる場所が内喉頭筋群である。これは喉仏の中にある筋肉群であると思って頂くとわかりやすい。この筋肉群は大きく分けて地声の発声時に主体となって働く声帯筋と裏声の発声時に主体になって働く声帯靭帯、裏声と地声を繋ぐブレイク領域で主体となる声帯縁辺筋、声帯を閉じる役目をする閉鎖筋(側筋と横筋)、声帯を開く役目をする開大筋、そして自力で働けない声帯靭帯を引き延ばして音程調整の要となる前筋(輪状甲状筋)がある。声はこれらの筋肉の筋緊張とバランスそして神経支配を行き届かせる事により確かなものとなるが、多くの人の場合は筋肉が本来持っている筋緊張力や弾力は慢性的な衰弱状態であり、神経支配も行き届きづらくなっているのが殆んどであり全体的なバランスを欠いている。そのため声を出す事に不自由を感じるのである。人の喉は元来、声帯振動の自然な削減(地声から裏声に滑らかに移る能力)やそれによる音響的効果である正しいサウンドビームとそのプラットホームを創造する能力(音響音声学者のハーバードチェザリーが提唱したサウンドビーム理論に基づき、人の声は音響学的なビームを発しており同時にその焦点となるプラットホームも音響学的に存在している。歌い手がその方向を精神の絵画に描く事により喉頭内の筋肉も生理的に正しく作用するとされる発声理論。)(このサウンドビーム理論はリリーレーマンや近年の多くの教師のいう感覚だけに頼った何の普遍性もない共鳴法や発声配置の理論とは根本的に違うものである。またアンザッツ理論も生理的考察があるためこれらの感覚のみのメソードと分けて考える必要がある。)、また生理的にも声帯筋や声帯縁辺部振動や声帯靭帯の伸展を共同作業させる能力を完備しているものである。(地声の中に裏声の要素がプラスされる事により潤いと響きと輝きのある地声が生まれ、裏声の中に地声の成分がプラスされる事により力強い裏声、いわゆる頭声が生まれる。またこの二つの音を滑らかに繋ぐのが声帯縁辺筋の役目である)だが自然と決別し話言葉を獲得した文明人の喉頭内の筋肉は慢性的な衰弱状態にあり、神経支配も行き届きにくくなってしまっているのである。そのため声帯振動の自然な削減やサウンドビームの乱れや特に声帯縁辺部への神経支配が行き届かなくなったためブリッジ及びブレイク(地声と裏声が滑らかに繋がらなくなる)が生じ、声が不自由なものとなってしまったのである。  ここではどうしたらそれらに活力を与え神経支配を行き届かせられるように訓練出来るのかを説明して行きたいと思います。ここに記された訓練を行う事により皆さんの声は自在さを取り戻し、声量のコントロール、広い声域、長いブレス(長いフレーズを歌える、長ゼリフを楽に言える)素早いメリスマ(素早いコブシ回しや早いパッセージ)等様々な表現の基本を獲得する事が出来る。役者、声優、アナウンサー等の声の訓練も理想的にはここからスタートするべきである、現在の役者や声優やアナウンサーの訓練の殆んどはいわゆる活舌訓練であり、根本的な発声訓練が行われているとは言い難い、そのため発音は良くても声が根本的な意味で自由自在な役者、声優、アナウンサーは極めて少ないと思う。また根本的な発声訓練を行っていると称した看板や宣伝はよくみかけるが実際には十九世紀ヨーロッパで未発達な科学によって歪めれたメソードの延長にあるような事を行っている場合が殆んどである。声優教師や俳優教師の声の指導は誠にお粗末な場合が多い、そのためか小劇場系の役者の中には発声訓練等無駄だと言うものも少なくないし、口では重要といいつつもその重要性を認識している人は極めて少ないのを私は感じずにはいられないのである。そしてそれは俳優達の責任以上に間違ったメソードを広めた教師達の責任であるといった方がよいと思う、教師達の多くは養成所や現場での経験からは多くの事を学んできた方が多く、真面目に学んできた方が多く、読書家も多いのだが何故か発声に関しては無知な方が非常に多いのである(西洋声楽の教師も同様である)それというのも発声訓練の真に正しい方法を知るためにはかなり高度な文献と歴史的な考察が必要となるためであるからであるように思う、だがそれでも教師達は発声に関しては極めて勉強不足であると私は思うのである。話はそれたが役者、声優、アナウンサーがこういった元来歌い手のために創造された訓練から行わなければならない理由は歴史的にみても生理的にみても人の声は話す事よりも歌う事のために存在していたという事につきる。それゆえに喉頭の内筋を生理的に正しく機能させようと思うのなら歌う声を鍛える以外に方法はないのである。それは演劇を歴史的にみても極めて自然な流れに思う、西洋演劇史をみた時、その直接起源は古代ギリシャにあるが古代ギリシャの演劇のセリフはどうやら旋律的であったとする学説が有力なのである。それは古代ギリシャ語そのものが非常に大きな高低アクセントを伴った言語であり当時の詩人や劇作家は同時に作曲家であったという事が推測される。古代ギリシャ語は完全5度を超える音程差も多くあったとあり、殆んど旋律に近かったと考えられるのである。以上のような理由より役者、声優、アナウンサー等も真の声の自由が欲しいのであれば歌声から目覚めさせる事をお薦めするのである。
具体的な訓練の仕方だが、まず純粋な状態のファルセットと胸声(地声)を取り出す事を行い、それぞれを強化しバランスを調整してゆく。調整が終わる頃には神経支配がほとんど行き届かなかった声帯縁辺筋にも活力が戻ってきているはずであるので二つのレジスターは自然に融合されてゆく。ここまで出来たら声帯振動パターンの削減(ショートニング)も完成される。尚この時に自然なサウンドビームとプラットホームを精神の絵画に描く事が重要な要素となる。また母音の純化(後に述べる)やポルタメントやメッサディボーチェとその変形であるエスクラマチオビバ、エスクラマチオラングィタにより確かな調整を行う事によりコーディネイトは完成される。    
なおレジスターについての説明だがレジスターは日本では声区と訳されていて、いわゆる、地声と裏声がそれにあたるが様々な説があり、1声区説、2声区説、3声区説と様々な説が論争の的になっているが訓練という視点でみるなら2声区説をとった方が都合が良く、生徒の声も発達しやすいように思う。それぞれのレジスターはいわゆる地声と裏声である。地声はいわゆる声帯筋が主体になって働き、裏声では前筋の作用を受けた声帯靭帯が伸展する運動が主体となる事で生まれるが発声訓練の場や時代においてこれらを意味する用語は多種多用な用語を持ち、混乱しているので他にどんな呼び名があるのかをここで説明しておく、声帯筋が主体となって働くいわゆる地声の別名に表声、ボーチェディペット、ボーチェディピエナ、チェストボイス、ヘビーボイス、ヘビーレジスター、ベラボーチェ(真実の声という意味であり、いわゆる地声の意味で使う人もいるが「真実の」という名称から喉頭の潜在能力の目覚めた完成された声を指す意味で使う人もいる)などがある。またこのレジスターの最下音にはシュナルレジスター、シュトローバスレジスター、エッジボイスと呼ばれる声も存在している。この声では胸骨甲状筋や外甲状披裂筋が主体で働き内喉頭筋に活力をもたす働きがある。

前筋の作用を受けた声帯靭帯の伸展により生まれるいわゆる裏声の別名にファルセット、ピュアファルセット、虚脱したファルセット、仮声、ライトボイス、ライトレジスター、またそれが発達した状態として頭声、ボーチェディテスタ、ボーチェディフィンテ、ボーチェディゴラ、ヘッドボイス等の呼び名がある。更にこのレジスターの上にフラジオレットレジスター、ホイッスルレジスター、パイフレレジスターと呼ばれるいわゆる笛声と呼ばれるレジスターの存在も確認される。これをファルセットレジスターと別のレジスターだとする考えと同じレジスターだとする考えとがあるがこのレジスターに変換される時多くの歌い手の間でチェンジされる感覚が報告されている事実から考えるなら指導現場では別のレジスターと考えた方が良いのではと思われる。

母音の純化についても説明しておく、歌い手や音声表現者は母音を使い訓練する事で多くの恩恵を受けるものであるがそれと同時に母音により多くの悩みを抱える事は間違いないであろう。ある一部の役者や声優や歌い手は活舌を良くする事をあまりに意識するために声の自然な流れを失ってしまう音節歌唱や音節歌唱的な言葉回しになったり、レガートカンタービレや声の響きを意識しすぎるがゆえに言葉が不明瞭になってしまう歌い手も数多い、またこれはいちがいにどれが良いというわけでもなく表現の傾向やジャンルにより大きく異なるのも事実である。しかし基本としては母音に統一性をもたせておく事をお薦めしたい。それは表現とかジャンル云々ではなく生理的に極めて健全な常態を獲得出来るからに他ならない。母音の純化とは一言でいうなら音質を調えたり、母音に統一性を持たせる事である。特に重要なのは原始母音と呼ばれるa、i、uである。またこれらの母音は極めて純粋にする事により以下のような特性をもつ事が確認されている。aは声帯縁辺筋の誘発に役立ち、後に外喉頭筋の説明の時により詳しく説明するが地声と裏声を滑らかに繋ぐ特性を持つプレイシングザボイスのタイプ3bの特性を持つ。

iの母音は甲状舌骨筋(喉頭を懸垂している外喉頭筋の一つで喉頭を上に引き上げる運動を行う、それにより内喉頭筋が影響を受けて閉鎖が強くなり音色としては平たい声を生み出す)や閉鎖筋、声帯靭帯を働かせタイプ5(裏声を鋭くした音色でゲゲゲの鬼太郎の目玉の親父や安田大サーカスのクロちゃん、京劇俳優等の鋭い裏声を思い起こして頂きたい)の特性を持つ。uは口蓋喉頭筋、茎状咽頭筋(両方とも喉頭を懸垂する外喉頭筋であり、喉頭を斜め上に引き上げる筋肉である)、胸骨甲状筋、(喉頭を懸垂する外喉頭筋であり、喉頭を下に引き下げる筋肉である。また上記の口蓋喉頭筋や茎状咽頭筋と引き合う事により声帯靭帯の引き延ばしにも大きな影響を与える筋肉である。この筋肉から生まれる音色は深く良く響き声量も得られやすい)輪状甲状筋の働きにより声帯靭帯の伸展を働かせ、タイプ4の特性を持つ(タイプ4は軽く漂うような裏声の音色であり地声に混ぜる事によりデックングと呼ばれる被せた感じの深い声が得られる。)、また喉頭蓋は直立しよく開いた常態になる。こういった母音の特性を踏まえた上で効率的に訓練する事は声に多大な恩恵をもたらす事は間違いない。この母音の純化と各レジスターの強化は同時進行される事が望ましい。またレジスター融合の後も母音の純化は行われるべきであり同時に最後の難関でもある。この常態でどの母音においてもまたどの母音が連なっても融合が崩れないように母音の純化が促進される事によりコーディネイトは完全となる。そしてこれらが完全に行われた時、生理的には内喉頭筋群は筋緊張と弛緩の幅を取り戻し、細かい筋肉にまで確かな神経支配が行き届く、また同時にあらゆる機能との統合が行われバランスが回復するのである。これらの訓練は最低でも6年〜10年かかるとされているが基本的な部分は半年〜1年で身につける事が可能である。特にポピュラーの歌い手や役者等はそれぐらいの訓練期間で基本課程としては十分である。ただし声は生物であるわけで、一度身についたらそれでおしまいではなく、生涯をかけて調整を繰り返し健全な喉頭の機能を損なわないように努める事が肝心である。そのたゆまない精進こそが芸を支え、より確かなものにするのである。声は時の流れの中で常に変わり続けているのであるその事実を受け入れ、その器の可能性を広げる精進を行いつつもその時の声の生理に無理のない表現を行う事こそが長く声の表現をし続ける上で重要である。しかし声の生理に逆らいながらも素晴らしい声の表現を残した歌い手や音声表現者達もいる・・・結局は表現者自身に全ての判断が委ねられる。

イタリア・ベルカント時代の大発声訓練教師のピエルフランチェスコトージが言うように最終的な発声訓練教師とは他ならぬ自分自身なのである・・・。
内喉頭筋群の強化、解放、神経伝達とバランスの回復について